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Beauty Source キレイの魔法

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恋愛セミナー64【宿木】

第四十九帖  <宿木 やどりぎ-3>  あらすじ

薫は中の姫のそばに身を横たえて長年の思いを語り続けます。
以前よりずっと大人の美しさが加わった中の姫は、ただ情けなく思うばかり。
明け方、人に見られないように帰った薫でしたが、中の姫が懐妊の証である腹帯をしていなかったら
とても身を留めることはできなかっただろうと思います。
「いたずらに分け入った道の露に濡れて帰る私。あの宇治の出来事を思い出す秋の空。」
薫の歌に返事をしないのを女房におかしいと思われるだろうと、
「文は拝見しました。気分が悪いのでお返事は失礼。」と返す中の姫。
そっけない返事にがっかりしながらも、匂宮に捨てられたら世話をするのは自分しかないとひたすら中の姫を恋い慕う薫。
兄のような後見のつもりだった心はすっかりなくなり、ただ匂宮を妬ましく思います。

なかなか帰らないことに気が咎めた匂宮が二条院へ突然やってきました。
中の姫は薫でさえあのような行動をするということを思い知り、匂宮を疎んじる気持ちにはなれません。
間遠になってしまった訪れを責めることなく、いつもよりさらに優しく甘える中の姫を好もしく思う匂宮。
けれど引き寄せた中の姫には疑いようもない薫の体臭が染み付いていたのです。

薫が帰ったあと、衣をすべて着替えていた中の姫でしたが、香りは身に染みとおっていました。
匂宮は薫に身を任せてしまったのだろうと厳しく問いただします。
何も言えず、ただ匂宮の罵詈雑言を聞き続ける中の姫。
「あの男からあなたに移った香りが我が身にまで染みて。なんと恨めしい。」と匂宮。
「慣れ親しんだ夫婦の仲と頼みにしておりましたのにこんなことでかけ離れてしまうのですか。」
涙を流しながら返す中の姫の可憐さに惹かれ、匂宮は嫉妬にさいなまれながらも一緒になって泣いてしまうのでした。

二人はゆっくり朝寝をして、食事も一緒の部屋でとります。
豪華な調度に囲まれた六条院の六の姫にも劣らない中の姫に、薫が惹かれるのは無理もないと思う匂宮。
恋文を探しても事務的な内容のものしかないのですが、薫と中の姫の関係を疑う気持ちは変わらず、
二条院から出ることはできません。

匂宮が二条院に留まっているのを妬ましく思いつつ、中の姫にとっては嬉しいことと心を慰める薫。
中の姫の女房達の衣が古びていたのを気づかって、母・女三宮に頼んでたくさんの布や衣を用意し、届けさせました。
匂宮は心は優しいのですが、やはり暮らし向きの細々としたことには気づかないことも多いのです。
薫も身分が高いのですが、八の宮の不如意な生活をお世話するうちに、だんだんと世の人に対しても
濃やかな心くばりができるようになり、声望も集めるようになったのでした。
それでも、中の姫に対する思いは止めることができず、文に綴る言葉にも恋心を抑えることができません。
薫の心づかいをありがたく感じ、親族でもないのに隔てなく過ごしてきたこの風変わりな関係を
今さらやめることもできないと思う中の姫。
大姫が生きていたらこんなことには、と薫の恋慕に匂宮に疑われることよりも心を痛めるのでした。


恋愛セミナー64

1 薫と中の姫    関守に阻まれて
2 匂宮と中の姫   疑っても

危ういところだった中の姫。
宇治での一夜より、格段に進行したと思われる薫の行動。
腹帯に薫が気づかなかったら、きっと二人は関を越えていたことでしょう。

薫の積極な行動をを推し進めたものは何だったのか。
心を開いてくれるのを待っていた大姫に先立たれ、中の姫を目の前で奪われていった自分の不甲斐なさ。
匂宮からないがしろにされ、自分のことを恨んでいると思っていた中の姫本人からの宇治帰郷の嘆願。
遠慮をしていては、チャンスはまた去ってしまう。
もう二度と後悔したくない、そんな思いが慎重な薫を後押ししたのでしょう。

中の姫にしても、きっぱり拒否してはいなかったように思われます。
匂宮の冷たさと比べて、薫の日頃からの親身な行動。
そしていまだに亡き大姫への思いが消えていない。
夫に選ぶなら、薫の方が良かったと感じても不思議ではありません。
夫に省みられない妻と思われている中の姫が、あくまで匂宮に内緒で宇治に連れてゆくように
親兄弟でもない薫に頼んでいては、逢瀬を望んでいるように思われても仕方のないこと。
それだけ薫が色恋の気配を絶って中の姫に対していたのかもしれませんが、
薫の行動を引き出したのは中の姫に負うところが大きい。

宇治にいることによって高められていた自分の価値が、京に入ったことで脆くも崩れてしまった。
山里にいれば衣が古びていようと調度がなかろうと気にすることはなかった生活が、
都の華美な世界ではどうしても見劣りするものになってしまう。
そして、新たな妻に心を奪われている夫・匂宮。
中の姫は宇治に帰り、匂宮から姿を隠すつもりでいたのかもしれません。
そうなれば、待っているのは薫との関係だと心のどこかでわかっていたのではないでしょうか。

薫との関係を疑う匂宮は、あっさりその夜、中の姫と寝室を共にしています。
妊婦とわかって引き下がる薫とは違い、比べものにならないほど恋の手数を踏んできた匂宮。
実の姉にも恋心を抱いたことがある匂宮には、妻の浮気や妊娠などあまりこたえないのか、
恋のタブーのハードルはずいぶん低い模様です。
そんな匂宮に影響されたのでしょうか、あくまで白をきりとおし、媚態さえみせる中の姫。
相変わらず行き届いた心ざしを届け、一線を越えてこない薫を、本当はどう思っていたのでしょうか。


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